「感動を・ともに・創る」を企業理念に、音楽を通じて心豊かな生活への貢献を目指すヤマハ株式会社。同社は、2019年4月からの中期経営計画「Make Waves 1.0」で、「顧客・社会との繋がりを強化し、価値創造力を高める」ことを基本戦略とし、"技術×感性"を強みに新たな価値の創造と提案を続けています。同社法務部および情報システム部では、コロナ禍の前から電子署名の導入を検証し、2020年9月からグループ会社も含めた全社での展開を開始しました。
法務部とDX推進部署が連携し実証実験をスタート
1887年にオルガンの修理を手がけた創業者の山葉寅楠氏にちなんで、1987年に「日本楽器製造株式会社」から現在の社名となった「ヤマハ株式会社」。同社は、楽器や音響機器の製造から、電子部品やゴルフ用品、リゾート事業に至るまで、人々の感動や感性に貢献するビジネスをグローバルに展開しています。海外のグループ企業の中には、音楽事業に関連してアーティストのマネジメントを担う会社もあり、北米を中心にドキュサインの導入は進んでいました。日本でもドキュサインの導入を検討した経緯について、経営本部 法務部 部長の大須賀千尋氏は次のように振り返ります。
「2019年に、各国の法務担当者が集まる国際会議で、電子署名の活用が好事例として米国子会社から紹介されました。当時関心は持ちましたが、ハンコ文化の日本での導入が一番難しいと思いました。半年後、本社が他の海外子会社を巻き込んでドキュサインの導入を推進してはという提案をもらい、本社で締結するグループ会社間やNDAなど限定的に導入可能かの検討を開始しました。」
法務部による電子署名の検討と並行して、DX戦略を推進する部署でもデジタルトランスフォーメーション(DX)の一環として、全社規模で電子契約を推進できないか考えていました。その経緯を情報システム部 DX戦略グループの前田茜氏は、以下のように説明します。
「電子署名を全社展開するには、まずは実証実験(PoC)が必要だと考えました。当時、グループ会社のヤマハミュージックエンターテインメントホールディングスの出向から情報システム部に移ってきた一ノ宮さんは、アーティストとの契約など契約業務の経験も豊富で、電子契約の推進に適任だと思い、PoC について相談しました。」
業務本部 情報システム部 管理グループのグループリーダーである一ノ宮祐二氏は、2019年6月からいくつかの電子署名ソリューションの検討を始めました。その取り組みとドキュサインを選んだ理由について、次のように話します。
「すでに北米のグループ会社で導入されていたことと、グローバルでの展開を考えたときに、どこの国でも知名度があり信頼度の高いドキュサインが適しているのではないかと考えました。そこで、2019年10月からドキュサインのフリーアカウントを活用して、ドキュサインからのサポートも受けながら、12月には情報システム部と取引のある企業と実際に電子契約を結ぶなどして、PoCを開始しました。」
コロナ禍により全社展開が一気に加速
2019年12月からドキュサインによる電子契約のPoCをスタートした情報システム部は、法務部と連携して具体的な契約に関する課題の洗い出しと解決方法の検討を始めました。大須賀氏は「法務部として解決するべき課題は、社内の承認プロセスに適合させられるかどうかでした」と説明します。また、法務部で実際に導入推進および各種調整を行ってきた経営本部 法務部株式文書グループ主事の石原幸子氏は、その対応について次のように振り返ります。
「法務部と情報システム部で定例会を開催して、ひとつひとつの課題を丁寧に解決していきました。例えば、各部門の担当者が自分のパソコンにファイルを保管してしまわないようにするなど、契約書のテンプレート作成やルール作りなどに取り組んでいきました。」
法務部と情報システム部が連携して、電子契約の運用が整い始めたときに、新型コロナウイスル感染症による最初の緊急事態宣言が発令されました。前田氏は「結果として、緊急事態宣言によるテレワークの急増が、ドキュサインによる電子契約の全社規模での展開を加速しました」と話します。そして、 2020年の5月から6月にかけて、情報システム部で全社展開に向けてプロセスなどを検証し、2020年9月から本格導入をスタートしました。
契約にかかる時間を大幅に短縮。業務効率や利便性の向上を評価
2020年9月の開始から約半年を経た現在、全24部門中17部門、13ある子会社の内9つのグループ会社でドキュサインの電子署名を使用しています。
導入の成果について石原氏は「例えば、社内の雇用契約ですが、これまで締結までに1週間から2週間はかかっていた期間が、早いものではその日のうちに完了するようになりました」と評します。また前田氏は「DX推進の立場から、目に見える形で業務を変革できたのは、とても大きな成果です。例えば、グループ会社のヤマハミュージックジャパンでは、約100名いる外部のデモンストレーターと電子契約を交わしました。デモンストレーターの方々は、契約の手間や時間が軽減されただけではなく、印紙代を負担しなくて済むことについても好反応でした」と話します。さらに大須賀氏は「法務部としては、本社のある浜松まで移動制限がある中、取締役会議事録への押印を電子署名に変えたことで、取締役や関係者から高い評価が得られました。導入可能な契約類型の調査は別途進めていましたが、株式文書グループから一見ハードルが高い印象のある取締役会議事録への電子署名利用は問題なく効果大との提案があり、すみやかに導入することができました」と評価し、「行政も押印を廃止する方向に動いているので、これまでの業務を見直し、ドキュサインと連携するツールも活用しながら、バランスのとれた使い方を設計していこうと考えています」と今後の展望を語ります。